ハンコやめるだけでは改革には不十分

ハンコ

 菅政権が発足し、河野行革担当大臣が官庁の書類への押印業務廃止(ハンコ廃止)に力を入れているようです。「9割以上減らせる」といった記事も出ていましたが、大事なのは押印を何割減らせるかではなく、どれだけ業務を効率化できるか、ムダな仕事をなくせるかです(そこまで踏み込んだ報道が少ないのは残念です)。

 自分も会社員時代、偉い人にハンコをもらいに行ったりしていました。官庁に限らず一般企業でも、ハンコ廃止による本質的なメリットは以下の2つだと考えています。

 ・重要文書がデジタルデータとして保管されることにより、コピー、検索が容易になり、保管や廃棄にかかる労力も減る
 ・ハンコを押す人(押印者)を減らすことにより、必要のない文書に目を通す時間が減り、権限と責任が明確になる

デジタルデータで保存する

 「デジタルデータ」という言葉よりもっと適切な言葉があるのかもしれませんが、要するに「コピペ」できる状態で重要文書を保存しておくことによって業務が効率的になる、ということです。

 ハンコ廃止に関するニュースは「何割減らせる・減らした」という話がほとんどで、メリット・デメリットの考察や意義を検証する記事は少ないです。そんななか、下記の記事は興味深い内容でした。
 「電子決裁率」ほぼ100%を2年前に達成した茨城県庁の今…担当者に聞いた“脱ハンコ”4つのメリット(FNNプライムオンライン 10月2日記事より)

 茨城県は2年前に電子決済率99%を達成しているのだそうです。4つのメリットとは①同じ案件なら翌年の文書作成が楽②文書の検索が楽③上司が職場にいなくても決済可能④書類を持ってハンコをもらいに行く手間の減少だそうです(記事中の文章をさらに私がまとめました)。

 ①は、紙で保管するにしてもWord等を使って作成すればコピペ可能では?という疑問もありますが、②と合わせハンコ廃止(というより紙での重要文書作成・保管)による非常に大きなメリットです。

 裏を返せば、電子決済になってハンコが押されなくなったとしても、スキャンした文書が電子ファイルとして保存されているだけで後から検索もできなければ、ハンコを廃止したところで大したメリットにはならないということです。

 「何言ってるの、電子決済できるなら当然検索可能でしょ」と思われる方もいることでしょう。しかし、不具合で2度も利用開始が延期された雇用調整助成金のオンライン申請は、従来の申請書をスキャンしたファイルを添付する方法なので、申請書記載内容の検索はできません。何のためのオンライン申請なのか理解に苦しみますが、官庁の電子申請もこのような方法で行われるものが出てくるのでは?と疑問に思っています。

押印者を減らす

 こちらは同じようなことを書いている記事を見つけられませんでした。1つの決済文書に何人もの人(場合によっては10人以上)がハンコを押している文書を見たことないでしょうか?紙への押印を止めて電子決済を導入するのであれば、「ハンコを押す人」を同時に減らさないと大した効率化にはなりません。

 こう言うと、「今もほとんど形式上押しているだけだから、ハンコを止めても大して効率化されない」という意見が聞こえてきそうです。しかし、ちょっと考えればこれこそが止めるべきムダな業務であることに気付くでしょう。

ハンコを押す意味をよく考えて

 しかし、この2つ目のメリットをきちんと享受する(電子決済化に合わせて押印する人を見直す)のはなかなか困難です。「組織のあり方」や「権限と責任の曖昧さ」が原因なので、変えるのは大変です(むしろ、権限と責任を曖昧にするためにたくさんハンコを押す書類を作成してきた、と言えます)。

 もしこの点も本気で変える気があれば、承認権限のある人(=電子決済する人)と報告だけの人(後から回覧を見る)を分けることや、 権限委譲することがポイントになるのでは、と思います。この辺りはまたの機会に。

蛇足

 そういうわけで、自分も事務所印など作っていませんでしたが、今年の夏に作ってしまいました。無駄だなあと思いつつ。ちょっと嬉しいものです。

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