103万円の壁って?

壁

 (「壁」の写真が桜の時期のものしかなくて…季節外れですみません)

 衆議院選挙が終わってから、「103万円の壁」が注目されています。国民民主党が、「手取りを増やす」「基礎控除等を103万円→178万円に拡大」を掲げているためです。しかし、私は今の議論にどうにも違和感があって、それがどこから来ているのかを書いてみます。

 話をわかりやすくするため、以下の家族を例に考えてみます。また、説明文中の収入はすべて「年収」で、給与収入以外の収入はないものとして記載します。

  • 父 :太郎さん(50歳) 会社員 年収600万円
  • 母 :花子さん(50歳) 主婦(パート収入あり) 年収100万円
  • 長男:颯太さん(20歳) 大学生(バイト収入あり) 年収100万円
  • 長女:美羽さん(15歳) 中学生

103万円の意味するところ

 「103万円の壁」は多くの人がこれまでも聞いたことがあったと思いますが、複数の意味を含んでいる(?)ところにわかりにくさと私の違和感の根源があるように思います。

①配偶者控除を受けられる上限

 父・太郎さんの所得が1000万円以下で、妻である花子さんの収入が103万円以下であれば、太郎さんは配偶者控除を受けることができ、太郎さんの所得税が少なくてすみます。「103万円の壁」と言うと、この「夫が配偶者控除を受けられなくなるからパートを控える」をイメージする人が多いのではないかと思います。

 現在は、配偶者特別控除というものもあり、花子さんの収入が150万円以下であれば、太郎さんの所得税は変わりません。ただし、勤務先の制度として家族手当がある場合に、配偶者の収入103万円以下が要件となっている場合があるため、意識されているという指摘もあります。

②扶養控除を受けられる上限

 配偶者以外の16歳以上の家族を扶養しているとき、太郎さんは扶養控除を受けることができます。こちらも配偶者控除同様、家族の収入が103万円以下であることが要件です。上記の例では現在は颯太さんが扶養控除の対象となっていますが、颯太さんのアルバイト収入が年間103万円を超えると、対象から外れるため太郎さんの所得税が多くなって手取りが減ることになります。

③本人に所得税がかからない上限

 給与収入が103万円以下であれば、所得税の額がゼロになります。内訳を少し説明すると、所得税の計算をする際に、給与収入には「給与所得控除」があり、収入額に応じて一定額が差し引かれて給与所得となります。収入が162万5千円以下の場合、一律55万円が差し引かれます。

 さらに、年間の合計所得金額が2400万円以下であれば、48万円の基礎控除を受けられます。そのため、

 103万円-55万円(給与所得控除)-48万円(基礎控除)=0(所得金額)

となり、所得税がかかりません。なお、住民税(都道府県、市区町村に納める税金)は基礎控除が43万円のため、収入が100万円以下であれば納税対象となりません。ということで、花子さん、颯太さんは自分自身の所得税・住民税がかからないということになります。

違和感その1=なぜ103万円?

 私は「103万円の壁」と言われると上記の①をイメージしていたので、「今は配偶者特別控除もあって、150万円まで収入は変わらないのに、なぜ103万円?」というのが最初に感じた違和感でした。

 そうしたところで、毎日新聞の記事で“答え”を見つけました。

 学生バイトの発想?国民民主「年収の壁」対策の不思議(毎日新聞サイト)

 (会員以外の方が読めなかったらごめんなさい。一時、ヤフーニュースにも掲載されていたのですが今は見られないようです。)

 国民民主は今夏、学生インターンシップを実施した。そこで「アルバイトで生活費や学費を稼ぎたい学生が、年収の壁で働く時間を抑えている」として「『103万円の壁』を引き上げる」という政策提言があり、急きょ主要政策に取り入れたという。(上記の記事より引用)

 ①じゃなくて、②の観点から盛り込まれた政策だったのでは、ということです。ニュース番組等では、「103万円超えないよう、親から言われてます!!」みたいに答えている若者もいましたが、この“壁”を意識している学生はどの程度いるのでしょうか…?

 学費や生活費のためにもっと働きたい学生が大勢いるのであれば、壁を引き上げるのではなく、奨学金などをもっと充実させてアルバイトをそれほどしなくても大学等に通える環境をつくるべきではないでしょうか。

違和感その2=なぜ基礎控除等を上げる?

 上記①②が理由であれば、配偶者控除や扶養控除の対象となる家族の所得要件を引き上げれば済む話です。しかし、国民民主党の主張は「基礎控除等を103万円→178万円に拡大」です。「等」が入ってはいますが、基礎控除の額を増やすということです。

 上述の通り、所得金額2400万円以下の人は48万円の基礎控除を受けられます。仮にこの金額を増やすとなると、所得が多い人も含めて所得税が減り(全体で8兆円とも言われています)、それでは税収が減って大変だという声が知事から出ていたりします。これでは、103万円の壁対策ではなくて、大型減税です。

誰のためにどこを変えるか 

 結局、誰の手取りを増やしたいかを明確にして、何を変えるのかということですよね。学生アルバイトのためなのか、給与所得者全員なのか、基礎控除を変えるのか控除の対象を変えるのか等々。

 私は税金の専門家ではないですが、担税力とか公平性を考慮して税制が作られていることは理解できます(そのせいで複雑になりすぎている部分もあると思いますが)。そういったなかで、基礎控除等を大幅に引き上げるのは、年収の壁対策として適切なのだろうか?という疑問があります。「誰にどのような働き方をしてほしいのか?」をもっと精緻に検討したら、違った対策になるのではないでしょうか。いずれにしても、今後の議論を見守りたいと思います。

 あと、社会保険の方では「106万円の壁」「130万円の壁」があると言われ、130万円の方はラスボスと言われたりもしています。社労士としては、そちらについて書かないとですが長くなったので今回はここまでにさせていただきます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です