社会保険の壁~106万円の壁は元々なかった?

年収の壁

103万円の壁関連

先月の記事で書いた、所得税関連のいくつもある「103万円の壁」は、閣議決定された令和7年度税制改正大綱で以下の改正案が示されています。

①配偶者特別控除38万円を受けられる上限 150万円→160万円
 配偶者控除の103万円は変わりませんが、現在でも配偶者の年収150万円までは配偶者特別控除の対象で、配偶者控除と同額の控除(38万円)が受けられます。この上限が年収160万円に引き上げられます。

②特定親族特別控除の導入
 大学生など19才以上23才未満の親族の年収が103万円以下であれば、親など扶養している人が「特定扶養控除」63万円を受けることができます(親の所得税が減る)。新たに特定親族特別控除が導入され、子(など)の年収が150万円以下であれば特定扶養控除同様に63万円が控除されます。150万円を超えると徐々に控除額が減り、188万円を超えると控除が0になります。「親の扶養対象外になってしまうから、バイト収入を103万円以内に抑えないと」というのが、金額的には150万円まで大丈夫になるということです。

③本人の所得税がかからない上限 103万円→123万円

 国民民主党が178万円への引上げを求めているのがこちらですが、基礎控除、給与所得控除を10万円ずつ引き上げることで、123万円とするという案になっています。

 昨年までなら国会審議でひっくり返ることがほぼありえませんでしたが、今年は少数与党ゆえこのまま決まるのか、まだ見通せません。

社会保険の壁

(1)106万円の壁

 ようやく“本職”(?)の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の方の壁に入ります。まず106万円の壁ですが、これは短時間就労者が社会保険に加入するかの条件に関わるものです。もともと、正社員や正社員の4分の3以上(≒概ね所定労働時間が週30時間以上のパート・アルバイト)は社会保険への加入義務がありました。これをもっと労働時間が短い人も対象にしていこう、という「適用拡大」が進められています。

 現状では、従業員(社会保険の被保険者)51人以上の事業所に勤務する人で、①週所定労働時間20時間以上30時間未満②所定内賃金が月8万8千円以上③雇用見込み2ヵ月超④学生でない、をすべて満たす人も社会保険に加入しなければならなくなっています。8万8千円×12月=105万6千円となるので、「106万円の壁」とも呼ばれるようになりました。
 ②の要件は所定内賃金=毎月もらう給与・手当が対象なので、残業など一時的な要因で増えた給与は対象になりません。実際にいくら収入があったかで判定される税金関係の壁とは考え方が違います。年末に働き控えれば扶養から外れない、というものではないのです。そういう意味で、「壁」にあたるのか疑問です。また、適用拡大が始まったのが2016年ということもあってか、103万円や後述する130万円に比べると意識されていないようにも思います。

 最低賃金の上昇によって、週20時間働けば月収8万8千円を超える人も増えていることやさらに適用拡大を進めるため、2026年度からは収入の要件と事業所の従業員の要件を撤廃することが厚生労働省の審議会で議論されています。元々壁と呼ぶほどのものか微妙な壁ですが、2026年度には名実ともになくなりそう、ということです。

(2)130万円の壁

 テレビ等で年収の壁の「ラスボス」とも呼ばれていたのがこの130万円の壁です。これは、健康保険の被扶養者となっている家族(専業主婦や子どもなど)の年収が130万円を超えると、被扶養者から外れるというものです。(60才以上の人や障害者の場合は180万円以上)

 例えば、健康保険で夫の被扶養者となっている主婦がパートで働いている場合、年収が130万円を超えると被扶養者になれなくなります。(1)で記載した社会保険に加入する要件に当てはまっていればパート先の社会保険(健保・厚生年金)に加入しますし、要件に当てはまらなければ国民健康保険に加入します。いずれにしても、(国民)健康保険料や年金保険料を自分で納める必要が出てきます。

 「103万円を1万円超えたところで、納める税金は500円」といった話も出ていましたが、この健保・年金保険料はその比ではなく、収入や健保か国保かにもよりますが10万円は下りません。それが「ラスボス」とも言われるゆえんでしょう。

 私の知る限りでは、この130万円の壁を変えようという具体的な話は出てきていません。

社会保険加入はデメリットか?

 健康保険の被扶養者でなくなった場合、国民健康保険・国民年金に加入する場合は単に負担増(手取り減)です。ただし、社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入する場合は、健康保険からは傷病手当金や出産手当金の対象になりますし、将来受け取れる年金が増えます。手取り減という目先のデメリットだけでなく、老後や万一のときのメリットにも目を向けたいものです。

 また、そういった金銭的な損得を考えて働き控えをするよりも、求められる時間働いた方がスキルアップや満足度アップにもつながることも多いのではないでしょうか?いずれにしても、「壁」を意識せずに働きたい時間働けるような税・社会保険制度が望まれます。

 最後になりましたが、本年もお世話になりました。良い年をお迎えください。

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