朝ドラ「ちむどんどん」の矢作を社労士視点で見ると?

居酒屋店員

 3年前に会社を辞めてから、NHKの朝ドラを毎日見るようになりました。元々妻は録画して毎日見てましたし。現在放送中の「ちむどんどん」は突っ込みどころが多くてSNSでは「ちむどんどん反省会」なるハッシュタグがついた投稿が恒例になっていますが、個人的には朝ドラの新しい楽しみ方を提供してくれていると前向きに捉え楽しんでいます。先週から今週にかけて、社労士的に気になるところがありました(以下ネタバレを含みます)。

偉そうな元先輩の求める労働条件

 ドラマの舞台は昭和50年代半ば、沖縄出身の主人公・暢子(のぶこ)は東京で沖縄料理の店を出すことを決めますが、開店準備中に妊娠が発覚。お店を任せられる料理人として、以前働いていたお店で先輩だった矢作(30歳前後?の男性)を雇うことにします。

 矢作は前の店で暢子につらく当たったり、他の従業員と示し合わせてある日突然退職したりと一癖ある人物。独立するも失敗して、食い逃げをするほどに落ちぶれていたところを暢子に乞われて経験のない沖縄料理の店で働くことになりました。

 

改心したかと思いきや、雇われの身のくせに暢子には偉そうな口をきき、「働くには条件が2つある」と言い放ちます。その条件とは
 ① 休みは週1日、残業はしない
 ② 給料はこの辺の相場でよい、ただし支払いが1度でも遅れたら辞める

というものでした。

 私はこのシーンを見て、「偉そうな態度は相変わらずだが、謙虚な気持ちで働こうとしている!」と思いました。社労士視点で少し解説したいと思います。

矢作は過大な要求はしていない

法定休日

 まず休日についてですが、使用者(雇い主)は労働者に最低でも週1日(または4週に4日)の休日を与えなければなりません(労働基準法35条)。まだ週休2日が一般的でなかった時代の話なので驚くには値しないかもしれませんが、矢作は「休みは法律で定められた最低限でいい」と言っているのと同じです。ちなみに、労働基準法で週の所定労働時間はその後48時間から40時間に減っていますが、法定休日の規定は現在でも上記のとおりです。

残業の可否

 次に残業についてです。「残業しませんなんて言えるの?」と思われるかもしれませんが、労働者の代表と書面による協定を結ばなければ、労働時間の延長や休日労働はさせられないことが労働基準法36条で定められています。店の労働者は矢作だけなので、矢作がNOと言えば残業はさせられません。計画性がなく、夢中になったら何時間でも料理を作ってしまう暢子の下で働く労働者(しかも妻帯者)としては、賢明な選択でしょう。暢子が産休に入ったらさすがにそうも言っていられないだろうという気もしますが。

最低賃金

 給与の額について、法的には最低賃金法によって都道府県ごとに時給の最低限度が決められ、毎年見直されています。さすがに「最低賃金でいい」とまでは言いませんでしたが、銀座の一流イタリアンで長年修行していた料理人としては、「この辺の相場でいい」はかなり謙虚です。

賃金支払いの5原則

 「1回でも支払いが遅れたら辞める」というのはお店の経営が軌道に乗るか分からない時点では厳しい条件のように感じます。しかし、給与の支払い方については労働基準法24条に「賃金支払いの5原則」が定められており、①通貨で②直接労働者に③全額を④毎月一回以上⑤一定の期日を定めて、支払わなければならないとされています。給与支払いの遅延は明らかにこの5原則に違反しますので、矢作は「法律を守れない会社では働けない」と言っているに過ぎません。

 全体として、矢作は過大な要求は全くしていないばかりか「法律で定める最低限は守ってくれ」としか言っていない・・・と感じるのは私が社労士だからでしょうか。

「業務内容」は労働条件として通知義務がある

 もう1点、一昨日の放送で話題になったところがあります。暢子は当面矢作以外の人を雇わず、2人で店を回していくつもりであることが判明、矢作は「自分は料理人として雇われた」として接客や会計など料理以外の業務を拒否し、暢子もこれを受け入れます。(ネット上では「矢作の言うのが正論」という意見が多かったようです)

 そもそも賃金、労働時間その他の重要な労働条件は雇入れ時に労働者に明示することが義務付けられており(労働基準法15条)、「業務内容」もこれに含まれています。大忙しの暢子が労働条件通知書や雇用契約書を作成しているとは思えませんが、作成していても調理以外の業務は入れていなかったでしょう。あんな感じの悪い矢作に接客をやらせる気はなかったのでしょうが(笑)、やってもらうつもりなら雇い入れる時点でその旨を伝えておく必要があります。

今後の展開

 ちむどんどんの放送はあと1ヵ月、妹の歌子が働いてくれることになったとはいえ、暢子の産休中は矢作もノー残業とはいかないのではないか、という点が社労士としては気になります。朝ドラウォッチャーとしては、イマイチな評価を覆せるのかが気になります。にいにいと清恵さんは早く結婚させてやってほしい。

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