信託報酬引下げ競争がまた激化? 「Tracers」登場

 「つみたてNISAとiDeCoをやってます」「eMaxis Slimを買っておけばいいんですよね」といった声を聞くと、インデックス投資も一般的になってきて、低コストの投資信託で積立投資を行っている人が増えてきていると感じます。

 今回は個別の商品(インデックスファンドのシリーズ、ブランド)に触れながら書いていますが、特定の商品に肩入れするものではありませんし、私が得をすることもありません。ただ、以下で名前を挙げるファンド(eMaxis Slim,Tracers,たわらノーロード,楽天インデックスシリーズ)で積立投資を行う分には、どれを選んでも大きな間違いはないものと思います。

「eMaxis Slim」

 「eMaxis Slim」は三菱UFJ国際投信が設定・運用する低コストのインデックスファンドです。何年か前に信託報酬(運用管理費用)の引き下げ競争がありましたが、その頃から「業界最低水準の運用コストを将来にわたってめざし続ける」というコンセプトを掲げています。
 eMaxis Slimシリーズサイト(三菱UFJ国際投信サイト)

 積立投資をする私たちとしては、一旦決めたらしばらくは積立商品を変えたくないところですが、他社の同様の商品が信託報酬を引き下げると「あっちの方がよかったかな、どうしようかな」と思ってしまいます。「eMaxis Slim」は「将来にわたって」とうたっているので、他社が下げれば追随してくれます。実際過去にそういう引下げがありましたし、つい最近もアセットマネジメントOneの「たわらノーロード S&P500」設定に伴い、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」などの信託報酬を引き下げたところです。

 「他店より高い商品があれば教えてください。同じ値段まで下げます」と言っている家電量販店と同じですね(そこまではっきりは言っていませんが、ほぼ同じです)。安心感があるので、私もいくつかの口座で積み立てています。

「Tracers」新たに登場

 日興アセットマネジメントが、新たなインデックスファンドとして「Tracers」(トレイサーズ)の運用を今月から開始しました。「コスト(信託報酬)水準には徹底的にこだわる」そうで、「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」の信託報酬は年率0.05775%(税込)です。同様の商品でも0.1%くらい(例えば上述の「eMAXIS Slim オールカントリー」は0.1133%)なので、驚きの水準です。

 後述の理由ですぐにこちらに乗り換えを!ということにはなりませんが、今後の動向を見て、来年の新NISA導入後に積立額等を変更する際には選択肢の1つとして検討対象になるでしょう。

 「Tracers」のサイトからはコンセプトと熱意が伝わってきます。また、投資信託のコストや分散投資の有効性などがわかりやすく説明されていると思いました。買わないにしても、一読をおすすめします。

 「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」(日興アセットマネジメントサイト)

投資信託のコスト開示ルール

 先程書いたeMAXIS Slimの“公約”からすれば、「Tracers」に追随した引き下げが期待されるところですが、同社は今回は引き下げを行わないとリリースしています。

 『eMaxis Slim(イーマクシススリム)』シリーズの基本理念について(三菱UFJ国際投信サイトより、pdf)

 リリースに記載されていますが、「対象指数の商標使用料」などが信託報酬に含まれているかいないか、基準が異なることが理由とのことです。楽天・バンガード・ファンド(現在は楽天インデックス・シリーズ)が登場したときも信託報酬の低さが話題となったものの、「隠れコスト」とも言われるこういった費用がかかることが指摘されていました。

 識者の方がおっしゃっているとおり、「開示項目の統一」(どの費用がどの項目に入っているかを統一する」ことが重要です。ファンドごとに、何にどのくらいのコストがかかっているのか比較できるような形で情報開示されるよう、整理してもらいたいと思います。

 ・・・竹川美奈子さんの新刊も発売されましたし、新NISAに向けて具体的な解説をぼちぼち載せていきたいと思っています。